とある貸しビルの2階、「あ、ここなの?」という所に悠々館はありました。友人Mが扉を開け一緒に中へ入ると、授業開始を座って待つ少年が直ぐに目に入り、彼もこちらに振り向いてきました。
少年はMを視認するとニカッと人懐っこい笑顔になりました。彼は自分を丸(仮)と名乗るとさっと手を差し伸べてきて、その勢いに飲みこまれていたNは変な愛想笑いと共に握手を交わしていました。
塾長の初対面の印象についてはもう覚えていない(スイマセン…)のですが、初回の授業については深く記憶に残っています。数学の軌跡の授業でした。
Nは当然チンプンカンプンからスタートしていたのですが、"軌跡とはそもそも何をするものなのか"という点について判り易く教えてもらった事をきっかけに解法と呼吸が合い、「なるほどね」と久々に学業に対して真摯に取り組んでいました。終わる頃にはこちらも久しぶりの充足感があり、そこには戸惑いと喜びが混在していました。
授業が終わった後、塾長に「進路はどう考えている?」と聞かれました。Nは
「本当は横国を目指したいですが、MARCHを何とか…」と何故か申し訳なさそうに答えていました。これに対して塾長は
「頑張れば東工だっていけるぞ。これからだよ。」と言います。笑いながらだったら大した記憶にならなかったのですが結構真面目な顔だったので、印象的な一言でした。
"横国飛び越して東工なんて。"内容については半信半疑どころかお伽話にしか聞こえていませんでしたが、そう言ってもらえる事自体が今の彼にとって大切にしたい・すべき出来事だったのです。
新緑の候、爽やかな夜、空へと続く様な直線道路。
遠い雲の上にそびえる大学の門、距離は変わらないけれど、しかしそこに階段を作ってもらった。彼は家路に着きながら、そんな気がしていました。
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