よくアドレス変更のメールが届きます。その中には本当に久しぶりの人からのものもあります。
最近、ずっと以前に教えていた予備校時代の女子生徒からも変更の知らせが来ました。
彼女に関してこんなことがありました。授業後、黒板を消している私の所へ今にも泣きそうな顔をしてやって来ました。「どうした?」と聞くと。「お金をなくした」と言います。夏期講習の費用を電車の中で落としたらしいのです。「どうしよう?」と言ったきり言葉が出ません。私も沈黙しました。
親にもう一度頼むわけにはいかないのだろう。といって、この夏期講習を受けないと来春の大学受験はきびしいだろう。そんなことを瞬間に考えて、私の口をついて出た言葉は自分でも意外なものでした。
「この話を事務にしたか?」
彼女は首を振りました。
「よし、じゃ黙ってろ。お父さんにもお母さんにも事務にも誰にも言うな。お前は夏期講習を受けなかったことにしよう、それで授業にはいつものように出てろ。俺とお前が黙ってればそれで済む」
彼女は少しほっとして、教室を出て行きました。
この解決で良いのか?私の中に自問する声がありました。
翌日事態は好転します。「先生、お金が見つかりました」と彼女が笑いながら駆け寄ってきたのです。「昨日、帰ってからお父さんに言ったら、あちこち電話してくれて、警察に届けられていました」
「そうか。良かった!だけどさ、誰にも言うなって言ったのに」
その子も今や一児の母です。
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